弱者の理論

場所と空間、重力とポップカルチャー。


只今、アーカイブ更新中…

2014年個人的ベストトラック10

 と、いうことでこちらのブログからはお久しぶりです。元気じゃないですけど、元気のフリをしています。
 最近はブログのほかにnoteで定期的にエッセイのようなものを書いています。こっちよりも軽い内容を軽めの量で書いているので、だいぶ軽い気持ちで読めると思います。軽いこと尽くしの勝手に連載『邪なひと』、よろしくお願いします。リンクから読めますよ。

 

 まあ、年末ですよ、年末。この間はとても楽しいクリスマスパーティーにお誘いいただきまして、美味しいケーキを頂きました。追加予算で買った京月をガバガバ飲み、最終的にはワインをボトルでラッパ飲みするというパフォーマンスに打って出ましたが、まあ酷いことを言ったりやったりもせず、なかなか楽しくお喋りができたんじゃないかと思っています。

 

 どうでもいい挨拶はこのくらいにして。今年もやりたいと思います。年末。2014年の楽曲ベスト10です。今回はきちんと順位もつけたので、カウントダウン方式で発表していきたいと思います。

 

 

 第10位:「LIFE」/ フジファブリック

 恐らく皆さんが楽曲ベストを選ぶとき、「2014年において重要であること」「アーティスト個人のキャリアの中で重要なこと」「自分(選択者)の中で重要なこと」をそれぞれの優先順位を持って天秤にかけると思うんです。で、それぞれのバランスを持って曲を選んでいく。まあ自分にとって大切なことは全てにおいて当たり前ですが。
 正直、志村正彦亡きあとのフジファブリックにそこまでの思い入れを持てていなかったんです。彼らは現在、その独特のヘンテコなポップセンスを尖らせることによってシーンで戦っていると思うのですが、ぼくにとってのフジファブリックの魅力は志村正彦の書く曲の変態性に依存するものが多くって。言ってみれば「いつも近くを通り掛かるお店で働いている女の子をジーっと観ている」変態の物語がポップな曲に乗ってしまうことによって起きる奇跡のバランスを楽しんでいた節があって。そういった他の人間では描きようのない変態性を失ってしまったフジファブリックにイマイチ乗り切れないでいた。音楽について話すときにはどうなのっていう話なんですが、ぼくはメロディーとかアレンジよりも、どうしても言葉に興味がある人間なんですよね。
 でもそれが「徒然モノクローム」辺りから変わりだし。短絡的に変態性を追いかけるんじゃなくって、もっと大きな、普遍的なものに向かいつつあるんだなあと思ったわけですよ。言ってしまえば、もう純粋にいい曲をたくさん作っているバンドだなあ、ということです。で、この「LIFE」です、この曲ですよ。
 恐らく、ひとりの仲間を失ったロックバンドは、さらっと「人生」やら「生活」について歌えないですよ。なのにきちんと「LIFE」と銘打った曲を作った。それだけでも重要なのに、生きていくこととか死んでいくこととか、続けていくこととかをめちゃくちゃ軽いタッチの曲にしたことがまた素晴らしいと思うんですよ。
 まあ自分の身の回りでもいろいろありつつ、「キャリア」にとって重要な一曲、ということでこれをチョイス。いい曲です。

 

 

 

第9位:「恋する団地」/ ayU tokiO

 これは、前の記事でたくさん書いたからいいか。
 都市と郊外、場所や空間っていうのはぼくにとってすごく大きな問題なんですよ。都市を華やかなものとして描くことができなくなりつつある中で、どうやってそれをポジティブに読み替えていくか。要するにコミットメントとデタッチメントというやつで。「恋する団地」はデタッチメントをすることでコミットメントの可能性を引き出すということがテーマなんじゃないかな、と書いたような気がします。
 ただ、この記事を書いてから思ったこともありまして。例えばいわゆる地方だったり郊外だったり団地だったり情報量も少ない純粋な生活空間をポジティブに描くためには、そこに「ノスタルジー」を載せるのが方法のひとつとしてあるんですよ。つまり、「懐かしいな、あそこに住んでたころは良かったな」って昔住んでいた場所を映画や歌にする。「団地ともお」とかそうじゃないですか。で、今になって思えば「恋する団地」も団地のノスタルジーから逃れきれてないのではないか、と。
 言ってしまえばノスタルジーに飲み込まれるといことはゆっくりと死んでいくということですから。これもまたいろいろ考えないといけない問題です。ただ、猪爪東風というソングライターがデビューしたというともかく重要な一曲。
 そんな、「2014年」にとって重要な一曲、ということで9位。



第8位:「NOW ON AIR」/ 赤い公園

 この話も前にした気がする。
 楽曲提供など作家としての話題には事欠かなかった津野米咲がバンド、赤い公園としてもポップスの中心にアプローチを仕掛けることを表明したかのような一曲。シングルの直後アルバム『猛烈リトミック』が発売されまして。恐らく赤い公園はこのアルバムの以前・以降として語られるでしょうね。これからのスタイルもどんどん変わっていくと思う。
 ロックバンドもポップスやメディアと徐々に仲良くなりつつあって。それがサカナクションからはじまって今はゲスの極み乙女。やら赤い公園やらに受け継がれているわけです。そのふたつの場所が交わり合う場所としての作家・津野米咲っていうの面白いと思うんですよね。
 そんな、「2014年」と「キャリア」にとっても重要なんじゃないかな、ということで8位。



第7位:「いいくらし」/ チームしゃちほこ

 チームしゃちほこよ、どこへ行く。
 彼女たちの面白さっていうのは、ふわふわしたタイプの女の子たちが日本を乗っ取ろうとしたり、あげく人類を背負うことにあるわけですよ。そんな中でリリースされた「いいくらし」は高度経済成長期やらバブルなんてもちろん知らないし、Jポップバブルも知らないような女の子たちに「おら東京さいぐだ」やら「EZ DO DANCE」やらのオマージュがガンガンに効いた曲に乗せ、「不景気らしいけどよくわかんない」やら「割といいくらしができているみたいだけどそれでも大変なんだよなあ」やら、そんな世代間ギャップをガンガン歌わせるという、もうやりたい放題の一曲。
 そんな、「2014年」にとって意外とこういう曲が重要なんじゃないかなあという一曲。



第6位:「Ghost」/ ドレスコーズ

 ぼくは志磨遼平という作家はめちゃくちゃに生き急いでいる作家だと思うんですよ。アルバムを聴いても、「死ぬ」ことや「終わる」ことをとにかく題材にする。そんな志磨遼平率いるドレスコーズが「ダンスミュージック」をテーマに作品を作ると聴いて、ぼくは「なるほど!」と思ったわけです。
 ダンスミュージックも、ある意味では「死」というか「終わり」に向かって一直線で突き進んでいくことをテーマとしている音楽です。ディスコで踊ってるうちは楽しいけどそれが終わったら退屈な平日がはじまってしまう、そんな「終わりの気配」やら「死の匂い」を観て観ぬフリをするんだけど、どうしても明日が近づいてきてしまう。そして「いつか終わってしまうこと」こそがダンスミュージックの魅力なんです。そんなダンスミュージックが抱えてしまっている問題が、志磨遼平のテーマと通じていると思ったんですよ
 それで、生まれたのがこの曲ですよ。表題曲、「ヒッピーズ」よりこっちです。中盤、ボーカルがオクターブ違いで二重になって、志磨遼平の声が浮遊していく辺りがたまらないです。
 結局、このミニアルバムをきっかけとしてドレスコーズ自体がバンドとして終わっちゃいます。志磨遼平ひとりとなったドレスコーズの新作『1』も素晴らしかった。こっちのテーマは終わることじゃなくって、「終わっても続く」こと。でも、『Hippies』のドレスコーズももう少し観たかったなあ。
 そんな、彼等の「キャリア」にとって重要だと思う一曲。あと、ダンスミュージックの本質をきちんと突きながら、それが作家の問題ときちんと繋がっている、とにかく美しい曲だとぼくは思うんですよ。



第5位:「スターライト・スターライト」/ TRICERATOPS

 いやあ、12月に食い込んできましたよ、トライセラトップス。彼らがやってきた「踊れるロック」をオールディーズと組み合わせて奇跡が起きた一枚。それまで正面切ってロックンロールをやってきた彼等ですが、だいぶスタイルを変えてきましたね。
 前にもトライセラトップスは「DANCE」「SPACE」「LOVE」を打ち出して『MADE IN LOVE』というアルバムを作っていて、世界観がサイバーパンク的だったこともあってなかなか無国籍な、アーバンな印象を受けるのですが、おそらくこのアルバムはトライセラトップスのファンが聴きたいものかと言われたら頭を捻らざるを得ない。とにかく曲が複雑なんですよ。まあぼくがトライセラトップスのファンになってから一番最初に出たアルバムがこれだったんですけど。
 それと比較した時に最新作『SONGS FOR THE STARLIGHT』はトライセラトップスのファンが求めるものをきちんとやりながら、ダンスミュージックを高水準できちんと完成させた素晴らしいアルバムだったと思いますトライセラトップスはここ2年ほどライブ活動を中心にして音源リリースをほとんど行ってこなかったのですが、その結果としてできたのがこのアルバムですよ。いわゆる流行の「ダンスロック」とはひと味もふた味も違う、15年選手の底力ですよ
 もちろん彼等のテーマだった「ダンスミュージック」というかもはや人力クラブミュージックに近いものを完全に人力でここまでやりきったという時点で「キャリア」にとってもちろん重要な一曲です。トライセラトップスを最近の流行と近づけて話すのは多分ダサいことで、彼等もそんなことは意識していないんだけど、ぼくはロックバンドがやる「ダンスミュージック」っていうのはこういうもんだと思うんだよ。BPM150以上はガキのリズムだよ。何言ってんだ俺。



第4位:「そんなに好きじゃなかった」/ Base Ball Bear

 この曲の話もした気がする。
 まあさらっとまとめてしまえば、この曲、ならびにアルバム『二十九歳』は、それまでのバンドが持っていたパブリックイメージとそれに付随するモチーフをもう一度引用しながら上書きするアルバムだった、と。いわゆる「終わりなき日常」ってやつで、人生って、青春とか、輝かしい時間が終わってからのほうが長いし、目標なんていっつも叶わないことばっかりなんだけど、それでも生きていかなきゃいけないんだよね。そんな「青春」を歌うバンドとしてある程度持ち上げられてしまったベースボールベアーが、青春にきちんととどめを刺すんですよ。
 そんな「キャリア」としての重要性はもちろん、ギターロックとダンスミュージックを融合させたロックバンドの走りとして語られることが多くなったベースボールベアーがダンスミュージック的要素をほぼ封印し、海外のギターロックの手法を用いることによって新作を作るという。「2014年」にとっても重要な曲だと思うんですよねえ。



第3位:「愛はおしゃれじゃない」/ 岡村靖幸小出祐介

 まさかの小出祐介ダブルフィニッシュ。この曲に関しては、キャリアとか2014年とか、もうどうでもいいっす。最初にちらっと聴いたときからただじゃ済まない雰囲気はありましたけど、とにかく大好きな曲です。
 それでも頑張って喋るなら、今は多分岡村靖幸を使ってクリエイターがいろいろおもしろいことをやる」フェーズが来てるんじゃないかなと思うんです。それが「ぶーしゃかLOOP」の映像だったり、「スペース☆ダンディ」だったり、西寺郷太との「ビバナミダ」だったんじゃないかなと思うんですよ。岡村ちゃんという49歳の男性アイドルを使って、いかにみんなが面白いことを出来るか。岡村ちゃんがそういうクリエイターを受け入れる馬鹿でかい表現の器になっている。そんな中での「愛はおしゃれじゃない」。どうですか。そういうことですよ。



第2位:「ディスコの神様」/ tofubeats feat.藤井隆

 今年はもうトーフビーツばっかり。そして藤井隆さん最高。前にもこの曲の話した気がする。
 結局はまたコミットメントとデタッチメントというやつで。インターネットによってそのふたつのラインが曖昧になっている、という話です。デタッチメントしながらもコミットメントできる。コミットメントしているのにデタッチメントしている自分の部屋にいるのにそこがディスコになるし、ディスコで踊ってるのにひとりぼっち。音楽の現場はどこだっつー話で、もうライブハウスやらクラブに行かなくても、現場なんてそこら中に生まれてしまうわけですよ。パソコンで曲を作ってネットワークで配信、パソコンで聴く時代ですよ。もう楽器の生演奏やら現場なんて無くても、そこそこ楽しめる時代ですよ。
 それでも今までは「ライブ行きたい」やら「フェスに行きたい」時代だったんですが、その中で「家で退屈でも音楽かけたら『そこそこ』満足」という、冷めた平成生まれならではの価値観を一曲でやりきってしまった、という、我々世代にとってはとんでもなくダイレクトに響く一曲です。この前後で彼の名前も爆発的に売れたわけだし、「2014年」と「キャリア」、どっちにとっても重要だったんじゃないかな。


第1位:「ぽあだむ」/ 銀杏BOYZ

 もう、言うまでもなくこの一曲です。ぼくは正直、銀杏BOYZに全く思い入れはありませんし、正直最新作を聴くまで大嫌いでしたけど、この曲しか1位はあり得ない、と。「キャリア」というより峯田和伸という作家の問題意識と「2014年」という社会ががっつり噛みあった結果生まれてしまった作品、しかも名曲と、三拍子揃った一曲です。
 どういうことかというと、結局は「一発ヤったら死ねるか?」という話で。今まではさんざんリビドーをテーマにしてきた彼等は、自らが歳を重ね、ファンも歳を重ね、どうしても成熟と向かい合わざるを得なくなるわけです。つまり、また「それでも人生は続く」っていう話で。あれだけしたかったセックスが終わっても人生は続くし、リビドーの先、これからは何を目標に生きてけばいいんだっていう話です。
 あとは言うまでもなく東日本大震災ですね。震災の直後はニュースやら輪番停電やらで日本中が非日常、ワクワクとは真逆ですが「これから何が起きるんだろう」という世界にぶちこまれるわけです。でもその結果、(もちろんある程度差はありますが)少なくとも都内で生活をしている限りはそこまで劇的な変化がぼくらに訪れたわけではなかった。そんな「なにかが変わりそうだったけど結局変わらなかった」という共通の認識があり、結局は「人生は続いていく」わけですよ。
 「ぽあだむ」で描かれていることは、目標も希望も無いけれどそんな日常をだらっと生きていくことで。男の子と女の子の関係を見ても、「君が愛してくれればそれでいい」というセカイ系的な姿勢というよりも「ふたりでこれからどうやって生きていこうかねえ」と一緒に前を見ているような曲なんですよね。
 今年の夏頃、それまでなんとなく持っていた目標を失うというか、チャレンジをして盛大に失敗したことがありまして。で、あーダメだったかーなんて思いながらこっそり腐ってたんですけど、その中で妙にこの曲が聴きたくなって。妙に心地よかったのを覚えています。




 と、いうことでカウントダウン形式で発表してきました2014年ベストトラック。いかがでしたでしょうか。今年はアルバムもやろうかなと思ったけど、選ぶの大変だから曲だけでいいや。

 それではみなさん、良いお年をお迎えくださいな。