弱者の理論

場所と空間、重力とポップカルチャー。


只今、アーカイブ更新中…

音楽の〈揺れ〉とか〈うねり〉とか ――〈踊れるロック〉の終わり?

 本当はこんなものを書いている時間なんてない。

 OKAMOTO’Sを聴いています。
 ちょっと前までは気鋭の若手バンドくらいのイメージしか無かったんですが、彼らがくるりの岸田さんはじめクリエイターにまあ愛されていること愛されていること。それでまあこれはチェックしとかなあかんと思いまして。それに加えて、昨今のオカモトコウキさんの発言や、岸田さんプロデュースの新曲も素晴らしかったので。新作アルバムを聴くのはもう少し後。
 それで一番印象的だったのが、ものすごく横ノリの曲が多いなあという印象でして。


OKAMOTO'S / ラブソング LOVE SONG - YouTube

Let It V(初回生産限定盤)(DVD付)

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 まだ聴いていない新作。楽しみ。

 


 ロックバンドに限らず最近のポップスに至るまで、音楽のBPMってどんどん上がっているじゃないですか。四つ打ちのドラムパターンにキャッチーなリフを乗せるライブで聴くなら拍の頭に合わせてジャンプしたり、こぶしを振り回したりする、いわゆる〈オイオイ〉の乗りかたができるようになる。僕が最近大好きなアイドルソングだって、ファンが「よっしゃいくぞー!」「ウリャオイ、ウリャオイ」を入れられるように、どんなに遅くてもBPM130前後のテンポを維持する。遅くてそれくらい、というだけでロックバンドだったらBPM160もザラです。とにかく、早いテンポに四つ打ちのドラムパターンそしてギターかシンセサイザーの轟音で音の壁をガーン!みたいな形式がもう既にテンプレとして確立されている
 僕は四つ打ちのドラムパターンが流行したのは多分ダンスミュージックとかテクノポップが流行った以降の話だと思っています。ゼロ年代の頭にパンクロックが一通り流行った後、その最後の最後にいわゆる〈踊れるロック〉の流行が来る。その中で現れたのがサカナクション。それ前後の〈踊れるロック〉の影響を受けてきた世代が今、徐々に世の中に出て来ている。まあもちろんこんなに簡単に見通しが立てられる話ではないですが。

 もう少し言うと、昨今の若いバンド、というか今大人気のKANA-BOONなのですが、が〈踊れるロック〉前後のロックバンドの美味しいところを蒸留・抽出してしまったせいで、現在のリスナーは自分たちが今まで〈何に踊っていたのか〉に気付き始めてしまっている。ちょうどいいリズムで踊りやすいビートとかっこいいリフであれば、自分たちは楽しく踊れてしまうことに気付いてしまった。魔法が解けてしまったので、多分もう〈踊れるロック〉は行くところまで行ってしまっているのだと思う。
 ただ、身近なところで流行っている音楽を考えると、僕はロックというジャンルは非常に保守的な音楽だと思っているんですよ。歌い手は基本的には〈アーティスト〉であり、自分の作品が位置している文脈だったり、参照項が常に求められるわけですから。昔からあるものをいかにして構成・編集させて現代の文脈に落とし込むかって話ですから。そもそも、このご時世にお客さんの目の前で演奏しようってことが時代錯誤って話なのかもしれないですが。今は演奏したものを録音するっていう形式自体崩壊してますからね。パソコンで作った曲をネットワークで配信してパソコンで聴く時代ですよ。もちろん、保守的だから悪いなんて言うつもりはない。

 いろいろなところで言われているような〈ロックは死んだ!〉的フレーズを僕は使うつもりはありませんが、ジャンルが変化する過渡期にいて、言ってしまえばいろいろな薬を試して延命措置をしている段階だと思うんですよ。その薬の一種類としてのダンスミュージックとの融合だった、と。多分これから、〈踊れるロック〉はそんなに流行らなくなるんじゃないかな。
 長々と書きましたけど、こんなことはどうだっていい。いや、どうでもよくないけど、ここではどうだっていい。何が言いたいかと言うと、現在の音楽は縦ノリが非常に流行っている、ということです。


 そんなこんなで、この前久しぶりにライブに行ってきました。昨年末にオープンしたばかりのEX THEATER ROPPONGIです。ちなみに、RHYMESTERBase Ball Bearの対バンでした。
 ここ数か月、自分よりも若い、といっても2,3歳下ですが、音楽ファンと交流する機会があるんですけど、みんなあんまりBase Ball Bearを聴かないみたいなんですよね。僕よりももっと若い世代が聴いていると思っていたんですが。きっと、高校生の時にリアルタイムでBase Ball Bearを聴いていた僕らくらいの世代が大人に片足突っ込んだ状態でまだ聴いているんでしょうね。バンドと一緒に歳を取ってけることは、それはそれでいいこと。RHYMESTERのライブもそれはもう楽しかったのですがここでは割愛します。
 僕がBase Ball Bearで一番好きな曲で「十字架 You & I」という曲がありまして、それをそのライブで聴きました。もう数年前の曲ですが、ダンス湯浅将平(ライブ中盤でギタリスト湯浅さんのダンスコーナーがたまにある)専用の楽曲としてまだライブでガンガン演奏されているようです。それがこんな曲。

「Base Ball Bear×神風動画」、噂のMV 「十字架You and I」!! - YouTube
 Base Ball Bearで曲を書いている小出さんはたしか「粘っこいグルーヴが苦手」と言っていたのですが、この曲は粘り気のあるR&B的なグルーヴからできるだけ湿度を取り去ったような楽曲ですよね。〈グルーヴって何だよ!〉という議論はいつでもどこでも盛り上がりますが、これは生半可な気持ちで喋りだしてはいけないお題なので今回はスルー。
 この曲のBPMが120に行かないくらい。で、ここから先は完全に僕の主観なのですが、恐らくこのくらいのBPMが縦ノリができるギリギリのテンポなのではないでしょうか。これよりもうちょっと遅くなると、毎拍の頭にジャンプを合わせるのが大変になる。相当高く飛ばないといけなくなりますからね。つまりここより遅くなると、聴き手はそれまでとは違うノリ方をしなくてはいけなくなる。そこでようやく、横ノリが必要になってくるわけです。
 ちなみに、Base Ball Bear小出さんが好きなアイドルグループ東京女子流は、このくらいのテンポでしかもパキッとしたR&B的な楽曲を作っていますね。その辺りのハモりもあったんでしょう。ちなみに小出さんが東京女子流に提供した楽曲も「十字架…」くらいのBPMでした。

 では、BPMが120を割る、つまり縦ノリができない楽曲を演奏するとき何が起きるか、と考えたときに多分それは演奏の隙間だと思うんですよ。速い曲は次から次へと押し寄せてくる拍の頭にキメを持ってこないといけないわけですから、必然的に演奏はパキっと整ったものになる。〈太鼓の達人〉をプレイしているときに、小さな赤い丸が次々と押し寄せてくる絵を想像してください。そういう感じです。テンポが落ちれば落ちるほど、いい意味で〈ルーズな演奏〉ができるようになる。
 以前にミュージシャン・音楽評論家の大谷能生さんの音楽史に関する授業を受けたことがあります。授業中で昔の音楽をたくさん聴くわけですが、その時に非常に印象に残っているのが、大谷さんは曲を聴きながらリズムを取る時に、腕で円を描きながら拍を取るんですよね。一拍で一周、肘から先をぐるぐる回す感じ。
 多くの人は、音楽を聴きながらリズムを取る時には膝を叩いたりするみたいな、〈点〉でリズムを取ると思うんですよ。恐らく、テンポっていうのは一小節の決まったポイントに四つ打ち込めばいいみたいな単純なものではなくって、ただ一拍の中でも、ジャストのタイミングに打って、打った反動で帰ってきた場所、そして一番大きく戻ってくる裏拍、そして次のタイミングの直前、といったように、一拍打ってからその次の一拍に入るまでの間に〈うねり〉がある。クラシック楽団の指揮者を見てみれば一目瞭然ですよね。一拍目は強く打って、その反動を利用しながら二拍目、力をそのまま流しながら三拍、そして次の拍につなぐための四拍目、みたいな。そういえばベースをまだ練習していた時代、ギタリストの友達から「リズム感を鍛えるときは裏拍を意識しろ、一拍の中に四拍あることを意識しろ」と言われたもんだ。
 まあ何が言いたいかと言うと、遅いリズムの曲はこんな、一拍の中に詰め込まれていたり、もっと言えば一小節のなかにあったりするようなダイナミックな〈うねり〉がモロに出ちゃうんですよね。それこそ軸と言ってもいい。ロックバンドで演奏経験がある人は、「速い曲よりも遅い曲の方が難しい」ってよく言いますよね。
 前回の記事でもちらっと触れましたが、ロックバンドの中で一番使われている楽器であるエレキギターは、こうした演奏の〈うねり〉、もうすこし違う言い方をすると〈揺れ〉が一番ダイレクトに表現できる楽器だと思うんですよ。アコースティックピアノだったら鍵盤を叩いた時の強弱くらいだったところを、ピッキングする場所、そのやり方、ビブラートのかけ方など、ちょっとした要素で音が全然変わってくる。びっくりするくらい弾き手のニュアンスが出る、言ってしまえば〈ルーズ〉な楽器なんです。見た目の問題もありますが、これがロックバンドでエレキギターが愛される理由でしょう。こんな面倒な楽器が愛される理由は、これがひたすら〈生〉の音が出せる電気楽器だからなんです。だから、多分〈うねり〉と非常に相性がいい。

 ずっと抽象的な話をしていますが、僕が思う演奏の〈うねり〉っていうのはこういうやつです。


くるり - ワールズエンド・スーパーノヴァ <武道館2004> - YouTube

 


 まあ、ここまではよくある議論
 そこから何が言いたいかと言うと、ゼロ年代後半から始まった〈踊れるロック〉の5・6年の歴史は、恐らく拍の間にある〈揺れ〉だったり演奏の〈うねり〉が消えていく歴史だったのではないか、と。
 四つ打ちのドラムパターンをあちこちで聴けるようになり、ロックバンドで電子音が当たり前に使われるようになり、それにとどめを刺すように完全にカラオケのアイドルソングがロックファンをも取り込むようになってしまった、と。その結果として、邦楽ロックフェスのメインステージの大トリがPerfumeになってしまった、と。
 決して〈四つ打ちが元凶だ!〉と言いたいのではなくって、わかりやすさ、踊りやすさを重視するあまりに曲がどんどん早くなっていって、その結果として全ての演奏から〈揺れ〉を排除して、それこそカラオケかと聴き間違えてしまうくらいに〈パキっと合っていることが当然〉、という風潮が高まっているんじゃないかな、ということです。その結果としてたどり着いてしまったのが現在の〈縦ノリの天下〉である、と。打ち込みの台頭によって音のうねりが消えている、と言ってもいい。


 例えば、昨年末の紅白歌合戦サカナクションが出場しましたよね。そこで、演奏した「ミュージック」で、前半はメンバー全員が楽器を演奏せずにマックブックに向かい合って曲が始まる、というパフォーマンスを行いました。全員が楽器に向かうのは後半から。ライブでもこのパフォーマンスでやっているらしいですね。先程、話の勢いで〈パソコンで作った曲をパソコンで聴く時代〉とか言いましたが、彼らはそれを間違いなく意識してやっていますよね。なんせ、PVもPCモニターに向かっている山口さんの映像だし、曲中にマックのエラー音が挿入されますよね。こんな。

サカナクション - ミュージック(MUSIC VIDEO) - YouTube
 ここで意識しないといけないのが、パソコンで曲を作っている段階では、拍の中にある〈うねり〉とか演奏の〈揺れ〉は一切出てこないんですよ。理論上。曲を打ち込んでいる段階では、全てがレイヤーに沿って縦にかっちり分割されていますから。恐らくそのレイヤーから微妙に音をずらすことでいい違和感を出すことをしているアーティストもいると思いますが、それはただの音の〈ズレ〉であって、生演奏にあるような〈うねり〉から生まれるタメではない。
 そんなパソコン同士の関係の上で成立していた音楽を、演奏の終盤ではきちんと楽器の下に返すサカナクションがパソコンで曲を作ることに肯定的か否定的かはわかりませんが(打ち込みの曲も多いので恐らく否定的ではないと思いますが)、淘汰されつつある生演奏を復権させようとしているのかな、と見て取れます。
 あとこれも前の記事でUNISON SQUARE GARDENの話をしたのですが、恐らく彼らもロックバンドが生み出してしまう音の〈うねり〉に意識的に音楽を作っていますよね。サカナクションが打ち込みと生演奏の対比で〈うねり〉を復権させようとしているのに対して、彼らの目的はそれを消し去ること。自分たちの演奏を限りなく打ち込みに近づけていくことで、打ち込み音楽のポップスの作り手に対しては〈人力でここまでできるんだぞ〉と、ロックバンドに対しては〈お前らもここまでやってみろ〉、という宣戦布告に見て取れる。もちろん、技術抜きにしてもいいロックバンドですよ。


 そんな消えつつある音の〈うねり〉を復活させる、縦ノリ至上主義に真っ向から対立する若手ロックバンドとして、OKAMOTO‘Sを聴いてみてもいいと思うんですよね。〈かつての音楽からの参照項〉云々の前に、彼らは圧倒的に横ノリをやるロックバンドなんですよ。OKAMOTO’S、同世代だからリアルタイムで聴いたときはたまげた上でがっつり嫉妬しましたけど、彼らのファートスアルバムに収録されている「Beek」なんて、お手本のような横ノリ曲です。


OKAMOTO'S / Beek - YouTube

 

 というか、ここでは〈踊れるロック〉と〈縦ノリ楽曲〉を当然のように組み合わせてきたけど、本来はファンクだったりR&Bだったりする〈横ノリ楽曲〉の方が圧倒的に〈踊れる〉音楽のはずなんですよ。そんな、踊れる音楽を本来の場所に復権するタームがそろそろ始まりだしてもいいと思うんですよね。
 ともかく、〈踊れる縦ノリのロック〉の流行は行くところまで来ていると思います。ここから数年間の注目は、この流行に続いて生まれるのは何だろうな、ってことなんですけどね。