弱者の理論

場所と空間、重力とポップカルチャー。


只今、アーカイブ更新中…

超私的・2013年ベスト10曲(後編)

ということで、昨年度私的ベスト10曲、その後編。

前編は

超私的・2013年ベスト10曲(前編) - 弱者の理論

から。

 

今回は、アイドルソングを2曲と、番外編3曲です。よろしくお願いします。

個人的には、後編が本番。

 

君の名は希望 / 乃木坂46


AKB48公式ライバルグループ。乃木坂46のシングル。
アイドル楽曲、〈軽く聴けてしまうのに飽きが来ない名曲〉部門一位。なんだそれ。
最初に聴いた時は、「あーいい曲だなー」程度だったのですが、しっかりした場所で聴けば聴くほど、楽曲に引き込まれていくんですよ。それまでは聴こえなかった楽器の音とか、楽曲の空気とか。そして何よりも、メロディーがすごく素敵。あと、楽曲の残り香、余韻のようなものに浸ってしまうような楽曲。
それまでの乃木坂46はボーカルの声が非常に合唱チックで、なんというか声に非常に特徴が無かったんですよ。それで「できるよ! もっとできるはずだよ君たち!」とずっと思っていたのですが、声に特徴が無くって合唱チックなところをひっくり返して〈清涼感〉に持ち替えた瞬間に生まれてしまったのがこの楽曲。
カップリングの「シャキイズム」もかわいいです。最近シークレット転調楽曲だって初めて気付いた。「行くぜ! 怪盗少女」といい、「ポニーテールとシュシュ」といい、一度サビだけ転調している楽曲だって気付いてしまうとその後はどう聴いても転調してるようにしか聴こえないから不思議よね。

君の名は希望

君の名は希望

 

 


誘惑したいや / 私立恵比寿中学


アルバム『中人』収録。くっそ名曲。
個人的には、今年はエビ中『中人』を聴きまくった一年でした。もしちゃんとベストアルバムを選出しても、間違いなく『中人』がベスト3以内に入ると思う。それくらいのド名盤。
どこでも言われているように、「誘惑したいや」はエビ中のパブリックイメージからは相当離れている、大人な楽曲なんですよね。それを多少背伸びさせて、無理して歌う瞬間に、〈筋肉は再生する時が一番痛い〉原理で、何かが起きてしまうものなんですよね。ギリギリ飛び越えられるか飛び越えられないかのハードルである「誘惑したいや」をエビ中は飛び越えてきた、という。
そんな文脈を抜きにしても、ただ単に楽曲としてくっそ名曲です。今年の音楽を語る場所で、みんなサカナクションとかPerfumeの話をしててこの曲の話がほとんど上がらないことが不思議なくらい。エビ中がもっと語られてもいい。
と、いうことでポップスのど真ん中を行ったアルバム『中人』ごと聴いてください。「仮契約のシンデレラ」、「放課後ゲタ箱ロッケンロールMX」、「大人はわかってくれない」ごと聴いてください。

中人(初回生産限定盤A)(DVD付)

中人(初回生産限定盤A)(DVD付)

 

 



Hello,999 / N'夙川BOYS

N'夙川BOYS - Hello,999(MUSIC VIDEO+マーヤLOVE本 ...

アルバム『Timeless Melody』から。
最近気づいたんですけど、僕は最終電車とか電車を見送ったりする〈電車系〉楽曲に弱いんですよね。そんな〈電車楽曲〉枠。いや、なんだそれ。
紋切り型の表現では、〈最終電車〉は何かの〈終わり〉、〈電車をやり過ごす〉は〈どこにも行きたくない〉といったモラトリアムの隠喩であることが多いような気がします。
Sound Scheduleは名曲『ピーターパン・シンドローム』で「最終電車を見送り」、モラトリアムを無理やり延長させようとした訳ですが、それに対して『Hello 999』は〈最終電車飛び乗り〉系の楽曲なんですよね。でもやはり、途中で「ハロー・グッバイ」という掛け合いがあるように、〈終わり〉の楽曲であることは間違いない。辛い別れを受け入れて、最終電車銀河鉄道に見立てて、手を振って別れていく。「最終電車飛び乗れば グッバイ」というフレーズでこの感覚を全て描き切っているのが素晴らしい。そんな、非常にロマンチックな楽曲でもあります。

Timeless Melody

Timeless Melody

 

 



最後のメリークリスマス / くるり

最後のメリークリスマス

最後のメリークリスマス

 

 
シングルの表題曲。
〈電車系楽曲〉、屈指の名曲「ばらの花」で「最終バス乗り過ごして もう君に会えない」というフレーズで〈好きな人に会いに行きたいんだけど、会いに行くのが怖い〉、〈電車が無いから会いに行けない、というきちんとした理由があればいい〉という論理展開を見事に描き切ったくるり岸田氏が、ついに〈電車系楽曲〉新しいジャンルの名曲を作ってしまいました。なんと、「最後のメリークリスマス」は〈電車遅延系楽曲〉です。
例えば〈電車系楽曲〉の中に〈電車待ち系〉というジャンルもあるのですが、あれはどこかに行きたいんだけどどこにも行けない、宙ぶらりんの状態の隠喩。それが〈電車遅延系〉となると、〈今に閉じ込められる感覚〉が加わるわけです。他の電車遅延系楽曲は沢山知りませんが、そのほとんどが、電車が遅れるのは夜、日付が変わる辺りですね。
その〈電車遅延系楽曲〉に〈クリスマス〉という要素が加わるとどうなるでしょうか。〈今に閉じ込められているけど、このままでいたい〉という感情が生まれてくるわけです。日付が変わってしまったらクリスマスは終わってしまうから、もう少し今日が長引けばいい。「遅れた電車がこの街の夢をたくさん乗せていく 明日になればもうこの街の景色 全部変わるだろう」というフレーズでこの感情を全て詰め込んでいるんです。もう、クリスマスソングではもちろんのこと、〈電車遅延系楽曲〉の傑作と言ってもいい。
他にも、くるりには〈始発乗り過ごし楽曲〉として「ハローグッバイ」という名曲があります。



したくてたまらない / スガシカオ

アイタイ (初回限定盤)

アイタイ (初回限定盤)

 

 
シングル『アイタイ』収録。完全に番外編。
スガシカオがライブで行うファンクセッションをそのまま録音したような楽曲。歌詞にほとんど意味は無い。
以前にもスガシカオはシングルのカップリング「俺たちファンクファイヤー」で同じようなことをやっているのですが、「したくてたまらない」はそれ以上にアホな楽曲です。やや、そのアホさが素晴らしい。
以前にスガシカオの記事を書いた時に、「40過ぎのおじさんたちがアホなことをやっているのがたまらない」と書いたのですが、それをさらにここまで振り切って、しかもレコーディングしてしまうっていうところが、他の40過ぎミュージシャンとスガシカオが決定的に違う所。そして、俺が好きなところ。いくら有名なってもその探求の矛先が自分に向いていて、簡単に社会に怒ったりするわけでなく、音楽をアホみたいに楽しむものとしてやっている。インディーズ移行の数年前からその姿勢が顕著で、それすらもスガシカオの大人の余裕のように見えてしまう。
いいじゃないですか、アホな楽曲がランクインしても。これについて〈アホな曲〉ということは完全に褒め言葉ですからね。 

 

 

…と、いう感じです。個人的には本当に最近ハマりだしたアイドルソングでくっそ名曲に出会ってしまったことと、くるりが年の瀬で〈電車系楽曲〉を平然と更新してきたのが印象的でした。

では、ことしもよろしくお願いいたします、でゲス。