弱者の理論

場所と空間、重力とポップカルチャー。


只今、アーカイブ更新中…

アニメなんて観ている場合じゃない

 夜がどんどん長くなってきている。

 秋から季節がどんどん移ろっていく様を言いたかったのではなく、僕達の生活の事だ。この世には一人でできる事が満ち溢れている。ゲームや動画サイト、深夜に放送されているクオリティの高いアニメを観ながら友達とSNSでやりとりなんかをしていたら、いつのまにか朝日が昇る時間になっている。そう言えば眠い事に気がついて布団にもぐり、目が覚めたら昼になっている。目が覚めて6時間もしたらもう日は沈み始め、再び長い夜がやってくるのだ。その結果あなたは、今日も長い夜を過ごす事になる。

 今夜も某動画サイトでうろうろしながら、僕は横目でツイッターの画面を眺めている。僕と同じような生活をしている友達が、夜な夜なオンラインで慣れ合っていた。彼らのツイートで画面が埋め尽くされる中、ひとつだけ普段あまり目にしないツイッターアイコンが視界に入った。高校の同級生のツイートだった。彼女とは高校在学中もあまり喋った事は無く、何故かツイッターでのみ繋がっているような関係だった。彼女のつぶやきを見るに、どうやら飲み会の途中であるようだ。二時のすこし前。僕の経験から言うと二次会を終えて三次会の店に入り、しばらく経ったくらいの時間帯だ。

 なるほど、彼女は酔っている。けらけら笑う女の子の真っ赤な顔がすぐに頭に浮かぶようなツイートだ。続々と僕の元にやってくる彼女のツイートを見ながら、つぶやいている彼女の姿をいつの間にか想像していた。

 これだけ笑ってるんだ、きっと楽しいに違いない。これだけ楽しいんだ、きっと仲の良い大人数で飲んでいるに違いない。それだけ大人数なんだ、きっと男もいるに違いない。男女がたくさんいるんだ、きっと楽しいに違いない。

 楽しいんだろうな、きっと。

 僕はページをスクロールする手を止めた。急に眠くなった事にして、デスクトップに開いたものをすべて閉じ、ゲームを片付けた。あと三十分で始まる例のアニメは、録画してあるから別のタイミングで観ればいい。

 僕がインターネットで世界と繋がった気分になっている時、どこかの居酒屋では酔っぱらった勢いで男と女がくんずほぐれつのラブゲームを演じている。あの子の頭がどこぞの誰かも知らない男に乱暴に撫でられて、それでもあの子は笑っている。欲望の渦巻く都会で、何かが起きている。そんな時、僕は自分の家でインターネットをしている。

 ひとりの時間が充実すればするほど、悲しい事に僕は当事者では無くなってしまう。舞台で踊るスター達を、袖から指をくわえて見ているだけだ。PSPを放り出して、パソコンの電源を切ろう。そして今すぐ、三次会を断って帰宅してしまった飲み会に合流すべきだ。長い夜はこれからが本番だ。事件はこれから起きるのに、アニメなんて観ている場合じゃない。