弱者の理論

場所と空間、重力とポップカルチャー。


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〈よくわからない人〉を目の前にするとき ――今月のUstream『白ゆき姫殺人事件』前口上


『白ゆき姫殺人事件』予告編 - YouTube

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)

 

  例えば、「他人との人間関係を円滑にするためには相手から〈○○な人〉と思われるようにしなさい」という言葉があって。例えばそれが「真面目な人」であるとか「面白い人」であるとか、そんなものでいいから、それが勘違いであってもどんな人だと一度断定してもらうことが大事、ということらしいです。まずどんな人なんだと一度理解してもらう。誤解を解くのは後でいい、らしい。

 ここで注目しないといけないのは、どんな人なのかわかり辛い人は相手にし辛い、ということで。真面目な人だったらこう関わるのが吉、とか、面白い人だったらここまで冗談を言っても大丈夫、ということはいくらあっても、「よくわからない人」相手では対処の仕方がありませんから。「初めての人に会ったら、直感で自分の記憶の中でその人と一番似ている人を想像しましょう。多分、あなたの感覚は大体あってる」という言葉もあるように、あまり好ましくない事だと思いつつ、みんな初対面の人を前にすると相手がどんなジャンルの人か、少なからず自分の中でカテゴライズしているんだと思います。で、どこにもカテゴライズできない人は、「よくわからない人」になってしまう。

 

 今、いろいろなところで話題になっている湊かなえ原作の映画『白ゆき姫殺人事件』ですが、これを〈バカッター〉モノであるとか、そういう語り方をすることもできると思うのですがまあそれは誰かがやっていることなので僕がやらなくてもいい。原作を読んだ時の感想としましては「こういう、人を外堀から埋めていくような伝聞モノって好きなんだよなあ、壬生義士伝とか読んだなあ」くらいの感想だったのですが、映画を観るともっと原作のいろいろなところがわかるもんですね、この作品を〈人間観察〉モノだととらえても面白いと思うんですよ。

 

壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)

壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)

 

   ストーリーとしましては、ある殺人事件が起きて、行方不明となっている被害者の会社の同僚が容疑者として浮上します。その容疑者が主人公。その事件を取材する記者は、主人公の会社の同僚、大学時代の友人や実家のご近所さんに会って話を聞くことで、主人公の人物像を探っていきます。ここで、他人に語られることによって主人公のキャラクターが一人歩きを始めるんです。こうしたネット上での盛り上がりと被害者の女性がとんでもなく美人であったことから、この事件は世間でとにかく話題になっていくんです。この2点が物語のキモ。(その被害者の女性を演じているのが菜々緒、という時点でひと通り察せ)そして、例の記者が取材内容をツイッターにつぶやいたり、身内から情報が漏れることによって主人公はインターネットで必要以上に叩かれることになる。そして、その結果到達する場所とは?! という物語です。

 

 とにかく、さっき書いた「よくわからない人」を演じる井上真央の得体の知れなさと言ったら。僕が「よくわからない人」と思ってしまう人の条件として一番大きいのが「表情が変わらない人」で。感情表現が苦手な人っているじゃないですか。笑ったりすることもなく、話しかけてもリアクションが薄い人とか。そんな人を相手にすると、我々はどうしても、「え、こいつ俺のこと嫌いなの?」とか「反応が無いから苦手…」となってしまうわけですよ。そんな人ってほとんどが顔の筋肉を使うのがヘタクソで、口を大きく開くこともありませんから言葉がもそもそして聞き取り辛い。そんな印象が悪く、よくわからない人を人間観察した映画として、非常に面白いと思ったんですよね。

 作品では、〈○○な人〉という言葉で語ることのできない女性のイメージが一人歩きして、それがめぐりめぐって本人を追い詰めていくわけですが、それ以上の話はここでは我慢。

 

 そんなこんなで、ブログでは初めてとなる告知です。

 大学の先輩と一緒に月イチで放送しているUstreamいいんちょと愉快な鼎談』、今週末27日21時から放送予定です。(URL:今週のお題は映画の原作となっている『白ゆき姫殺人事件』。当日はここで書いたような原作の「人間通」的「ネット炎上」的、そして先月に引き続き「女性のマウンティング」的な要素を横断しつつ、ぐだぐだお喋りする予定です。

 こら、そこ。ここでほとんど書いちゃってるとか言うんじゃない。